不 安


 少し大げさだと思われるかも知れませんが、心配なことを書いてみます。私の自宅は200ヘクタールの広大な水田や果樹園に囲まれた集落にあります。蜂や虫好きな私は、ここ10年程でいろんな生き物が減ったように感じているのです。


 はじめておかしいなと思ったのはアキアカネでした。子供達の運動会の空に、私の頃にはあった、空一面に交尾しながら飛ぶ赤トンボの風景がないのです。
 いつのまにか、家の前を流れるコンクリートのU字溝には、ドジョウがいなくなりました。数年前までは、近づくと何匹もあわてて逃げる様子が見えましたし、ペットボトルで作った“どう”に20匹以上も入って親子で驚いたこともありました。
 イナゴも田んぼにいなくなりました。子供たちの保育園では、秋になると目の前の田んぼで捕まえ佃煮にして食べていました。
 カブトムシは、白色街灯に寄って落ちたものを夜や朝に捕まえます。毎朝、街灯ごとに車に潰されていましたが、今は一匹も見当たりません。一緒に飛んでくるコガネムシや大きなヤママユ系の蛾すらいません。
 アゲハ蝶は、近頃見た記憶がありません。
 少し回復したようですが、5年前位からスズメが激減しました。私の家と小屋には毎年必ず作る場所が三ヵ所あるのですが、ここ数年一ヵ所も作らなくなりました。
 スズメバチは、毎年40件前後の駆除を頼まれ30年以上続けています。キイロスズメバチの巣は、9〜10月にもなると、バスケットボールの1.5倍ほど大きくなります。しかし、数年前から小ぶりになり、昨年は大きなものは、バレーボール大のものがたった一つだけでした。彼らの餌になる大型昆虫が減っているのではないでしょうか。
 野生のハチは全般的に減った気がします。自宅周辺で、マルハナバチも、黒くて丸いクマバチもめったに見かけません。記念碑に何年も営巣していたニホンミツバチもいなくなりました。その他名前も知らないハナバチ類やハナアブ類も、少し前まではもっとたくさんいたように思うのです。100mのひまわり畑を歩いてニホンミツバチがたった2匹だけ。今年は甘い香りのクズもたくさん咲きましたが蜂がいない不気味な風景です。
 全国の養蜂家のミツバチが元気をなくしているのも確かです。養蜂新聞に掲載される地域ごとの会議の議事録に農薬被害の話題は絶えません。これは研究者の間でも賛否ありますが、愛媛大学と金沢大学で、ネオニコチノイド系農薬による影響が大きいとする発表がなされました。特に人里で飼育しているミツバチには影響があります。果樹や野菜の蜜や花粉、稲の花粉など、ミツバチの餌が汚染されることにより死んでしまったり、帰れなくなったり、免疫力が落ちて病原菌やダニに冒されやすくなっていると考えられています。
 実家の養蜂場は奥山なので、人里のミツバチのような影響はないのですが、夏になると少し元気がなくなるような気がします。やはり、春の一ヶ月間、花粉交配に導入した果樹園の花蜜に含まれる微量の農薬が、女王蜂や次世代の幼虫に影響しているのかも知れません。業界では、ビフィズス菌やビタミン剤など様々な健康栄養補助飼料が出回っています。ミツバチの生活を見ていると、健康ドリンクやサプリメントを飲む現代人の生活の縮図を見ているようです。


 5月、厚生労働省は、農薬の大手メーカー住友化学の使用申請を受け、ネオニコチノイド系農薬のクロチアニジンとアセタミブリドの食品残留基準値を緩和しました。ほうれん草はクロチアニジンならこれまでの3ppmが14倍の40ppmまで許されました。これは1kg中に残っていても良いとする農薬の値です。
 ネオニコチノイド系農薬は、有機リン系農薬としくみが似て、昆虫の中枢神経に働きかけ、神経伝達を狂わせ、異常興奮や麻痺など、脳が正常に働かないようにして死に至らせるものです。ここ15年ほどで売上が激増し、農薬のみならずハエやゴキブリの家庭用殺虫剤、住宅建材、ペットのダニ・ノミ駆除剤など、生活環境全体をとりまいています。
 影響は、昆虫と同じ神経系を持つ人にも及ぶと警告する学者や医師がいます。特に、身体の小さな胎児や小児の脳の発達を阻害し、発達障害や多動性障害、自閉症になる可能性が示唆されています。さらに神経系だけでなく、アレルギーや免疫系、皮膚、生殖器系にも影響を及ぼすという報告もあり、環境系NGOや消費者団体などから基準値の引き下げを求める声が上がっています。
 この農薬がとても心配なことは、「浸透性」と「残効性」が高いことです。茎や葉、花、花粉、蜜、果実などに行き渡り、長い期間内部から殺虫効果を持ち続けるのです。葉を食べる虫達と同様、訪花昆虫の激減は、餌の蜜や花粉が、以前と違い「常に」汚染されているからなのです。農家の方に聞きましたが、スズメは、稲穂が固まる前のジュース状態のものを吸うのが大好きだそうです。ちょうど農薬散布後にあたる8月後半です。きっと同じことが起こっているのではないでしょうか。
 それは人も同じです。この農薬は染み込んでいるので、いくら洗っても落とせないそうです。全てとは言いませんが、私達は虫が食べて死ぬ農産物を食べているのです。厚生省は大人の体重53kgで基準値を定めていますから、子どもや、虫とさほど大きさの変わらない胎児への影響は考慮していません。
 そして、なにより不安に思うのは、国の定めるネオニコチノイド系農薬の残留基準値が緩いのです。食品や農薬ごとに違いますが、概ね日本はアメリカの10倍、EUの100〜1000倍緩いとされます。例えば、アセタミプリドのイチゴの残留基準値は、EU諸国は0.01ppm、アメリカは0.6ppm、日本は3ppmです。ネオニコチノイド系農薬について、EUは一昨年から安全性が確認されるまで暫定的に使用を中止しました。アメリカや韓国でさえ新規の使用を禁止しています。そんな中、日本は逆に大幅緩和です。
 改正されたクロチアニジンの残留基準値(ppm/kg)は、毎日食べる米が0.5→0.7、レタス3→20、シュンギク0.2→10、コマツナ1→10、ニラ、パセリ2→15、ミツバ0.02→20、と大幅に緩和。茶葉は改正前から50ppm。なんで日本はこんなに基準値が高いのでしょう。本当にこれらは適切な値なのでしょうか。
 気になることがあります。使用申請を出した住友化学は、自民党への献金額が毎年ランキング上位。2013年は特に高額の3600万円。緩和した分、売上は上がるのです。疑わずにいられませんし、国の経済策は、原発や安保法案も然り、国民の安全の切り崩しに思えます。
 ご存知でしょうか。厚生省が定める日本人の4大疾病(がん、脳卒中、心臓病、糖尿病)をはるかに上回り、2011年に五大疾病に仲間入りしていた急増中の病気を?それは「精神疾患」です。(うつや不安障害、痴ほう、自閉症、発達障害、多動性障害 等)これはやはり、このネオニコチノイド系農薬の摂取が大きな要因なのではないでしょうか。同じように急増した食物アレルギーも、食品添加物と相まって農薬が大きく影響していると思ってしまいます。
 25年続けている体験教室では毎年千人以上の子供と接しますが、そういった病気を抱えている子供はあきらかに増えています。ぞっとするのは、山形県は果樹地帯にある学校の特別支援学級児童が特に多いのだそうです。私の町もりんごが主産業です。私は地元中学校の学校づくり推進委員を務めていますが、たしかに、特別支援学級の生徒が6人もいて驚きました。私達の時は現在の倍以上の生徒数でしたが1人もいませんでした。
 後ろに企業が見える経済優先の国づくりは、地球環境や文化のみならず、私達人間の身体や心まで同じように破壊しているのではないでしょうか。
 私は心配しすぎでしょうか。

〔参考になるサイト〕
一般財団法人アクトビヨンドトラスト
公益財団法人 日本食品化学研究振興財団
ネオニコチノイド系農薬中止を求めるネットワーク
農林水産省/消費・安全  
社会保障審議会医療部会資料 (pdf
厚生労働省 自殺・うつ病等の現状と今後のメンタルヘルス対策(pdf/2011)

(ハチ蜜の森キャンドル通信「ハチ蜜の森から」No.37 に掲載 2015年8月)



気分〔感情〕障害(躁うつ病を含む)は激増している

詳しい厚生労働省のPDFファイルはこちら


よろしければ、こちらの作文も読んでみて下さい。
私のアレルギーのこと

 


ハチ蜜の森キャンドル