アシナガバチの引っ越し作戦

 6月の中旬のこと。アシナガバチの駆除を頼まれました。
 行ってみると、大きなキアシナガバチでした。しかし、まだ女王蜂一匹なので、もう一度別の場所で人生をやり直してもらおうとビニール袋で生け捕りにしました。スズメバチやアシナガバチの女王蜂は、秋に交尾して越冬し、春先は子供が生まれるまで巣作りや子育てを一匹でするのです。
 人里から離れた場所で、女王蜂を逃がしてあげようとしましたが、落とした巣を見ると、すでに幼虫が5〜6匹生まれていました。ビニール袋の中で打ちひしがれる母蜂の姿を見ているとかわいそうになり、なんとかうちのベランダに巣ごと移住させられないだろうかと考えました。それに、家の裏には、私の無農薬家庭菜園があり、葉もの野菜を食い荒らすアオムシ類がたくさんいます。アオムシはアシナガバチの幼虫の大好物ですから、お互いにメリットはあります。
 しかし、外れてしまった巣をどうやってくっ付けるか。また、女王蜂を放した時に、飛び去られないようにするにはどうするか。ミツバチとは勝手が違い過ぎます。 
 あれこれ考え、ついにいいアイデアがひらめきました。まず、巣の根元の軸を割り箸ではさみ固定しました。そして、うちの子供達が使っていたプラスチックの昆虫飼育ケースを持ち出してきて、そのふたの内側に針金でセット。ケースの真ん中に巣がぶら下がっている状態です。
 そこに、上の入り口から女王蜂をそっと入れてみました。すると、すぐに巣を見つけくっ付いてくれました。きっと涙の再会だったでしょう。一晩、水槽の中で親子水入らずで過ごしてもらいました。
 夜明け前、あらかじめ水槽のふたにセットしていた針金で、ベランダの手すりの木部にしっかり固定し、静かに水槽を外してみました。巣を放棄するかも知れないと思いましたが、じっと巣にへばりついて子供達を守っていました。さすがお母さん。大成功です。


ベランダに設置


巣を守る女王蜂


静かにケースをはずして


 7月中旬現在で、15匹位の家族になりました。きっと9月のピークには50匹程に増える予定です。
 ところで、アシナガバチはいったいどれだけのアオムシを捕まえるのでしょう。たとえば少なめに見積もって20匹の外勤働き蜂が一日2匹ずつアオムシを捕まえたとしたら、毎日 40匹、一週間で280匹、一ヶ月なら1200匹。こんな計算方法が当たっているか分かりませんが、正直驚きの数字です。


 さて、みなさんの周りにスズメはいますか。私の家には、長年必ず巣を作る場所が三ヶ所ありましたが、数年前から作らなくなりました。間違いなくスズメは激減しています。
 ミツバチはいますか。このあたりでは、野生種のニホンミツバチは山にいますが、人里では随分減ったように感じます。近所の神社に長年営巣していた群れもいなくなりました。
 養蜂家も、ミツバチを飼うのが大変な時代になりました。私の住む朝日町には、西村山郡内では最も多い10人程の養蜂家がいました。ところが、10年程前からやめる方が相次ぎ、きちんと飼育できている養蜂家は、うちの実家を含め奥山で飼育する専業養蜂家2軒と、自宅で50年以上飼っているベテランの方と、たった3人になってしまいました。そのベテランの方も、近頃はたびたび蜂を買っています。養蜂家の間では「蜂飼いではなく蜂買いになってしまった」と笑い話にならない洒落が飛び交っています。
 いったい何が起こっているのでしょう?
私も養蜂家仲間も、農薬の影響だと思っています。ネオニコチノイド系農薬が大量に使われるようになるにつれ、スズメもミツバチも激減したように思うのです。山形人の好物のイナゴもいなくなりましたし、カブトムシやクワガタ、アゲハチョウ、カマキリなど、子供に人気の大型昆虫も人里ではめったに見かけなくなりました。
 農薬のメカニズムが変わったのです。以前の農薬は虫にかけて殺していましたが、ネオニコチノイド系農薬は、それに加え、あらかじめ農産物に吸わせておいて守るしくみになったのです。農産物そのものが殺虫剤になっていると言っても過言ではありません。しかも残効性が高いので年中効いているらしいのです。国は農作物の農薬残留について、国が認めた基準値内であれば許しています。
 何が起こっているのか、具体的に水田で考えてみます。夏、このあたりでは、花が咲く前にラジコンヘリで防除が行われます。やはりネオニコチノイド系農薬を使っています。すると、稲は農薬を吸っている状態でまもなく花を咲かせます。風媒花なので蜜は出しませんが、ミツバチやハナバチ類は花粉を取りに行きます。花粉は幼虫たちの餌です。
 しかし、その花粉にはネオニコチノイド系農薬の神経毒が含まれています。次世代の幼虫たちは脳を破壊されて育たなくなり、しだいに群れは小さくなります。成虫はすぐに大量に死なないので被害が見えづらく、気づいた時には手遅れになってしまうのです。
 そして、花が終わると、稲はまもなく穂をつけます。穂にはまだ硬い米ではなく、スズメの大好物の米汁が入っています。しかし、その米汁の中にも神経毒が入っているのです。これがスズメを激減させた理由ではないでしょうか。もうカカシは見かけなくなりました。
 同じことが、水田だけでなく全国の畑や家庭菜園で起こっていると思うのです。
 EU諸国では、2013年よりネオニコチノイド系農薬の使用を暫定禁止とし、今年はついに、3種類(イミダクロブリド、クロチアニジン、チアメトキサム)の農薬について使用を禁止しました。しかし、日本は逆に農薬残留基準値を引き上げて大量使用を促しているかのごとくです。
 怖いのは、私たちもミツバチやスズメが死ぬ農薬入りの農産物を食べているのです。小さな胎児をおなかで育てているお母さんも食べています。脳を破壊するネオニコチノイド系農薬が、私たち人間の心や体を壊しているという考え方があります。
 実際ここ15年で、精神疾患の患者数は、横ばいだった200万人から400万人に倍増しています。うつ病が激増し、次世代を支える若者の自殺率は先進国で世界1位です。子供達の発達障害は15人に1人という大変高い発症率です。ミツバチと同じことが、人間界ですでに始まっているのではないでしょうか。


 さて、アシナガバチの巣を移すことに成功した私のもとに、その後、5群れのアシナガバチ駆除の依頼が舞い込みました。このすべてを無農薬有機栽培農家として頑張る友人の畑(はしもと農園・大江町三郷)に移住させることができました。蜂の性格がだいぶ分かってきたので、ビニール袋と小さな木箱でできるようになりました。アオムシ駆除にどれだけの効果があるかはまだ分かりませんが、うまくいけば友人の大きな助っ人になるかも知れません。
 そして考えました。誰でもアシナガバチを簡単に移住できるように仕掛けを工夫すれば、全国の安心・安全野菜を作る農家に貢献できるのではないだろうか、と。

(「季刊地域」(農文協) 35号 2018秋号 連載「 ハチミツの森から」最終回)掲載

 


小さな木箱に巣を付け直して引っ越し


はしもと農園(大江町)の畑へ、結局20群引っ越して15群成功 。
ヨトウムシなどの被害が大変少なかったと喜んでいただきました。

 

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アシナガバチ移住プロジェクト


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ハチ蜜の森キャンドル