ハチミツ屋に砂糖あり!?
何年か前のこと。工房でゴミ袋に使っていた巨大な“砂糖の紙袋”を見つけたお客様に、「蜜ロウソクは、ハチミツのほかに砂糖も入れてるんですか」と尋ねられたことがありました。もちろんミツバチの巣だけで作る蜜ロウソクには、ハチミツはおろか、一つまみの砂糖も入れてはおりません。
だいぶ前に、同じようなことが実家のハチミツ屋でもありました。ハチミツを求めにいらしたお客様に、たまたま届いたばかりの砂糖袋の山を見つかってしまったのです。それ以来その方は、ハチミツは砂糖をまぜて作っていると思い込んでいたそうです。何年かしてから打ち明けていただいた時には、大笑いしてしまったものの大変申し分けない気持ちになってしまいました。ハチミツ屋の倉庫にある砂糖は、実は正真正銘ミツバチの“越冬用飼料”なのです。
晩秋のあたたかな日、うっかり仕事に夢中になっていると、工房の中をミツバチが十匹も二十匹も飛び交っていることがあります。野山に、草花すらもなくなってしまうと、かすかな蜜ろうの甘い匂いに誘われ、網戸のない窓から入り込んでしまうのです。工房をブンブン探し回って、なにもないとあきらめたミツバチは、窓から出ようとしますが、今度はガラスにぶつかり、ブーブー羽音を立てます。まるで「早く出せー」と訴えているようです。その度に、手で払ってあげたり息を吹きかけて外へ出してあげるのは、全く面倒なことです。
ミツバチは、アシナガバチやスズメバチと違って、群れで冬を越しますので、冬の食料として一雫でも多くの蜜の貯えを必要とします。養蜂家は、充分な蜜を貯えていない群れには、少しずつ何度にも分けて餌を与えなければなりません。それにミツバチは、気温が下がり蜜が集まらなくなると、産卵をやめ、家族も減らしてしまいます。適度な給餌は、ぎりぎりまでの産卵を促させる目的もあります。
実家のミツバチは、年末前にトラックで暖かな南房総に引っ越しますが、そこでもやはり、いつも餌の状態を注意深く確かめ、少ない群れに餌を補充します。やがて春の気配を感じ、再び産卵や子育てが始まると、咲き始めた菜の花の蜜だけではとても足りませんので、度々与えるようになります。この季節も適度な給餌は産卵を促しますので、減ってしまった家族を早く回復させることができるというわけです。
合計すると、一群れになんと15kg以上の砂糖を食べさせることになります。しかし、初夏には50kg以上のハチミツを収穫させてもらうのですから、子育てのこの季節は惜しみなく与えなければならないというわけです。
給餌作業は、ハチミツの収穫ほどではないものの、重くて大変な仕事です。巣箱を一つずつ開け、適量の蜜がたまっているか、産卵の具合はどうか、巣板を一枚一枚取り出し確認します。巣箱には、一升ほど入れられる木の餌箱が入れてあります。その餌箱に1:1の割り合いで溶かしておいた砂糖水を流し込んでおけば、ミツバチが自分達の巣にせっせと運び入れるというしくみです。
いつだったか、蜂場に置いていたその砂糖水の一斗缶を盗まれたことがありました。泥棒は、砂糖水をハチミツだと思って食べているのかと思うと、なんだか気の毒になってしまった事件でした。
そういえば、こんなエピソードもありました。子供の頃のこと。私にとっては、いつも食べているハチミツよりも砂糖のほうが魅力的で、たびたび手をつっこんでは舐めていたことがありました。ところがある時、口の中がじゃりじゃりの砂だらけになり、ちょっと苦味もあり、しかも急いで吐き出したら、それが青色をしていたのでびっくりしてしまいました。それは、関税を安くするために業界が輸入した飼料用砂糖だったのです。飼料にするためには、食用に使われないように、白い砂と食べものにはあまりない青い食用色素が入れてあったのでした。その出来事以来、砂糖のつまみ食いは全くしないようになりました。
というわけで、どこのハチミツ屋さんの倉庫にも、必ず砂糖は山積みされています。私がごみ袋に使っていたのは、仲間のハチミツ屋さん達が、その袋に蜜ロウのかたまりを入れていくつも送って下さるからなのです。
ということですので、ハチミツ屋で砂糖を見つけても、けっして 「ハチミツに砂糖を入れている」なんて思わないでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
ハチ蜜の森キャンドル
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