繋がり伝えたい体験教室

 「安藤さんはミツバチから食べ物もおうちも取って悪い人だ」。 小学二年生の女の子に怒られたことがありました。何度か目の「ミツバチ観察会」でのこと。若い私はその一言にすっかり意気消沈してしまいました
。突き詰めて考えれば、養蜂家も、蜜ろうそくを作る私も、さらには消費者もいないほうが自然にはいいのです。
 環境教育のお手伝いになればと、蜜ロウソク製造をはじめた二十年程前から、ミツバチ観察会や蜜ろうそく作り体験、森の案内などを行う「体験教室」も並行して取り組んでいます。「自然と人の距離を縮めたい」。製造も体験も、純粋にそう思って始めたことでした。
 私たち人間の衣食住が多くの動植物の命をいただいて成り立っているように、蜜ロウソクも小さなミツバチ達の命の恵みです。一匹が一生かかって集められる蜜の量は、わずか小さじ一杯程度。さらに、そのハチミツを若い働き蜂が食べて、おなかの中で十分の一の蝋(ろう)に作りかえ、分泌し、巣を作ります。巣箱内の必要ない場所に作られた邪魔な巣を収穫しているといえど、百グラムの蜜ろうそく一本には、概算で三百匹以上の一生涯の働きが詰まっているのです。
 蜜蝋は、ロウソクのほかに、口紅やクリームなどの化粧品、軟膏や座薬などの薬品、木や皮製品などの仕上げ剤、鋳造の蝋型、接ぎ木、画材、絶縁、ろうけつ染め、コンピューターの基板接着、食蝋なのでガムや焼き菓子にも使用されています。今や蜜蝋は、私たちの生活から切り離すことのできないありがたい恵みとなっているのです。
 若い私は悩んだ末に、教室名をそれまで使っていた「ミツバチの森体験教室」から「ハチミツの森体験教室」に変えてみました。始まりの視点を「ミツバチ」ではなく「ハチミツ」や「蜜ろうそく」に変えてみたのです。おいしいハチミツや優しいあかりの蜜ろうそくは、どうやって私たちの前に表れるのか。その繋がりをたどってみることにしました。秘めたコンセプトは「ミツバチや自然に感謝」。それまでの「ミツバチや自然と仲良く」の漠然としたコンセプトはきっぱり止めました。
 何度か実践しているうちに、子どもと一緒に参加したお母さんから「うちの子はお皿にこぼれたハチミツをぺろぺろ最後まで舐めるようになりました」と感想の手紙が届きました。なんだか正解をいただいたようで嬉しくなりました。そして、似たような感想は度々いただけるようになったのです。
 世の中の動植物は、「もらって返す」の食物連鎖で繋がっていますが、私たち人間は多くの命をいただいていても何も返せてはいません。人間がなにも返せないのなら、せめて、食べる度、使う度に、素直な「感謝」の念を感じることで返せないでしょうか。
 繋がりを知る体験をすれば、そこに必ず親しみや感謝といった愛情の念が育まれ、それは一生涯のものになります。その気持ちこそが、食べ残しやムダ使い、無益な殺生や自然破壊を減らすことに繋がると私は信じています。
 生産や製造する者の多くは、他の命に手を掛け消費者に渡す仕事です。せめて私はその一人として、養蜂と自然の繋がりを伝えるという一片の役割を担っていこうと思っています。そして、多くの分野で繋がりを知る機会が更に増えていくことを心から願っています。

(河北新報「座標」2008.2.23掲載を一部加筆)

ハチ蜜の森キャンドル