花粉交配とミツバチの病気

 昨年はミツバチの減少がたくさん取り沙汰されました。ダニや病気の猛威、農薬被害、どうやら様々な理由が重なってしまったようです。確かに実家のミツバチも少し元気がないようでした。春の蜂蜜の収穫量もとても少なく、このあたりの養蜂家はみんなまさに「泣きっ面に蜂」状態だったようです。
 でも、果樹農家の皆さんが花粉交配用のミツバチが手に入らずに大慌てした理由は、大量に輸入予定だった外国産の女王蜂に病気が見つかって日本に輸入されなかったからなのです。と、言ってもそれは私の実家のような蜂蜜収穫を目的とする通常の養蜂家には関係ないことです。もちろん、花粉交配にも貸し出しはしているのですが…。
 どういうことか整理して説明すると、まずは飼い方です。蜂蜜を収穫するためには、ミツバチの家族性を大切にして一匹でも多くの働き蜂を維持しなければなりません。そのために養蜂家は一年中、いろいろな世話をするのです。花のない季節は餌をやり、巣箱を清潔なものに交換し、寒い時は紙で内側を囲い、毎日のスズメバチの襲撃から守り、電気牧柵でクマからも守ります。冬場には600km離れた南房総まで連れて行き、さらには家畜保健所に頼んで病気の検査も受けています。収穫のためと言われればそれまでですが、養蜂家のたくさんの愛情がミツバチに注がれ、人間寄りとはいえ「いい関係」がそこに生じていると思うのです。ただ、一人で飼える群れ数には限界があり、作付けが増える果樹農家の皆さんのニーズには応えきれなくなっているのが現況です。
 ところが近頃、そこに目をつけ愛情のない方法でミツバチの群れを簡単に量産し、大量に花粉交配用に販売する商売が始まりました。その方法は、通常3万匹前後いるミツバチの家族を五つにも六つにも、段ボールやベニヤ板でできた粗末な小箱に分け、そこに外国の養殖業者から大量に輸入した女王蜂を、一匹ずつ入れ即席な家族を作るという強引なやり方です。家族を ばらばらにされたうえに、外国から来た継母をあてがわれてしまうのです。こうして簡単に100群のミツバチを500群や600群に増やすことができます。そして、それをとてもいい値段で販売する商売です。でも、それが悪い事だとはけっして言えないです。人間は他の生き物の命を犠牲にして生きているのですから。
 ただ、困ったことが起き始めています。病気が蔓延しはじめているのです。交配が終わると購入した農家の方は飼育できないので、そのまま使い捨てとなってしまいます。ミツバチは花のない季節に大きな群れが小さな群れから蜂蜜を奪う習性があります。ミツバチの世界ではあたりまえな摂理です。この「小さな群れ」に先ほどの使い捨て蜂もあたるのです。  
 元々、養蜂家の世話なしでは日本では生きられないセイヨウミツバチです。しかも家族構成も成り立たない群れが、手入れもされず、農薬をかけられれば、益々蜂数を減らしてしまうのはあたり前のことです。やがて衛生状態が悪くなり、なりを潜めていた恐ろしい病原菌に冒されます。そこに通常の養蜂家の大きな群れのミツバチが蜂蜜を奪いに入ってしまい、病原菌を自分の群れに運び二次感染してしまうのです。販売業者は花粉交配が終わったら焼却処分する事を前提に販売していますが、かわいそうなのと次のシーズンも使えるのではという期待から、きちんと処理する農家の方はほとんどいないようなのです。
 収穫を得るために農薬を使い、果樹園に媒介昆虫がいなくなり、ミツバチを手配し、さらに足りなくなるとミツバチが工業製品化され、弱くなり病気を招き、また蜂が足らなくなる。通常の養蜂家もその仕組みの一部でお金をいただいているので強い事は言えませんが、やっぱりなんだかおかしいなと思ってしまうのです。

(平成22年2月発行 通信「ハチ蜜の森から」より)

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