ニホンミツバチとセイヨウミツバチ

 人気番組でとりあげられたせいか、昨年はニホンミツバチがなにかと賛美され取り沙汰されました。ニホンミツバチは、このあたりでは山蜂と呼んでいます。祖父の養蜂の始まりでもありました。私も20年程前から飼っています。一時は10箱まで増やしたことがありましたが、現在は熱中すると本業が疎かになってしまうので、飼っているというよりも空き巣箱を自由に使わせているといった感じです。
 ニホンミツバチは、セイヨウミツバチよりもきゃしゃな体つきで、飛び方も軽々として、体色は白黒です。寒さに強く、天気さえよければ真冬でも飛んできます。スズメバチがくると一斉にウェーブをして羽を波のように動かし威嚇します。その時の羽音は「ウワーン、ウワーン」と、まるで獣の唸り声にも聞こえます。さらに皆で果敢に包み込み、高い体温で何倍も大きなオオスズメバチを蒸し殺しにすることもあります。でも、性格は温厚でそんなに人を刺さないのが特長です。巣箱の前を歩いても、巣箱を開けてもめったに刺してきません。ただ、群れの蜂数は少ないので収穫できるハチミツは少ないです。ニホンミツバチを見ていると、日本人と重ねあわせてしまい親近感がわいてきます。大型養蜂が困難な理由には「クールな性格」が上げられます。世話を焼き過ぎると群れごと逃げてしまうのです。「逃げられて元々」な気持ちで飼うのがいいようです。
 近頃、ニホンミツバチのハチミツが何倍もの高値で売買され、趣味と実益を目的に飼われる方がとても増えています。うちにも飼い方やロウソクの作り方などの問い合わせが何度もありました。実家のハチミツやうちのロウソクがセイヨウミツバチのものと知って落胆するお客様もいらっしゃいました。ニホンミツバチVSセイヨウミツバチ論を戦わせる方もいます。
 なんだか異常なほどのブームになりつつあります。こんなに多くの人達が飼い始めるということは、全国でどんどん野生のミツバチが捕まえられハチミツは奪われ、冬越しできずに死んでしまうパターンが日本中で起きているのでしょう。想像すると少々哀れに思ってしまいます。蜜源が少なく農薬も身近で、スズメバチも熊もいる日本のフィールドでの飼育は初心者にとってそんなにたやすいことではないのです。しかし、ニホンミツバチを飼うことにより、自然環境のことを知るきっかけになっているとしたら止むない犠牲なのかも知れません。種を保つ力は強いのでそれにより絶滅危惧種になることもないでしょう。
 最後に、私はニホンミツバチのハチミツも、セイヨウミツバチのハチミツも、同じ価値があると思っています。
 日本が誇る在来種ニホンミツバチは、野生に棲むミツバチとして、寒い季節も暑い季節も野山の隅々まで飛び回り、在来植物達の受粉を助け、多くの野生の生き物達や人にまで豊かな実りをもたらしています。
 片や150年程前に日本に輸入された外来種セイヨウミツバチは、養蜂家にとって大切な相棒です。畜産業として一年中様々な世話をします。巣箱を掃除し、花のない季節は砂糖水を食べさせ、花のある場所に移動し、スズメバチや熊から守り、蜜源になる木も植えています。そうして特別な愛情が育まれます。そして花が咲く季節に、ついにハチミツを分けてもらうのです。それにより多くの人々が健康を維持することができています。さらに私達の食べるサクランボやイチゴ、りんご…といった元々外来種の果樹の受粉活動に大きく尽力しています。蜜蝋においては医療軟膏や化粧品、絶縁材料、ワックスなど多くの分野で人々の生活を支えています。
 人間にとってどちらのミツバチも同じ位感謝すべき大切な存在なのです。
 このニホンミツバチのブームが、ただ消費・消耗するだけの無下なブームにならないことを、そしてニホンミツバチとセイヨウミツバチの関係に、より良い調和をもたらすことを心から願っています。

(平成23年1月 サイト「情報屋台」掲載)

ハチ蜜の森キャンドル