東日本大震災と養蜂

 昨年4月。津波被害のあった宮城県亘理町の農家へ、がれき撤去のボランティアに参加した時のこと。グニャグニャにへし曲げられたイチゴハウスの残骸の中に一枚のミツバチの巣板を見つけました。改めて、人のみならず、人を支えていた尊い命の犠牲もあったことに気づかされました。
 あとで知ったのですが、隣町の山元町も含め、このあたりは東北最大のイチゴ生産地だったのです。ミツバチは花粉交配のためにその一生を捧げているのです。宮城県の河北新報に、両町のイチゴ栽培農家380戸のうち、なんと356戸が被害を受け、96ヘクタールのイチゴ農地のうち90ヘクタール以上が津波で流された、という記事を見つけました。
 いったい90ヘクタールもの農地にどれだけのビニールハウスが建っていたのでしょう。一つに一群(箱)と考えると、ものすごい数のミツバチが犠牲になったようです。

 私たちは、ヘドロ撤去が主な仕事でした。
7人がかりで床下に腹這いで潜り込み、半乾きの真っ黒なヘドロを夕方までかかって取り除きました。しかし、塩分や有害物質を含んだこのヘドロは床下だけではないのです。庭も畑も田んぼも、あたり一面覆われているのです。まるで、長年人間が海に流して来た汚れ物を、海が「こんなものいらない」と、人間界へはじき返してきたかのようでした。
 その農家のご主人は、「再開はとても難しい。トラックの運転手でもするつもりだ」と落胆なさっていました。私達は返す言葉もありませんでした。別れ際「再開された暁にはイチゴ食べ放題をお願いしますね」と声をかけるとニコッと笑って下さいました。
 亘理・山元のイチゴ園が再興すること。そしてミツバチがまた元気に活躍する日がくる事を心から祈っています。

 さて、クリスマスが近い12月のハチ蜜の森キャンドルは、例年インターネットからの注文が相次ぎ、製造が最も忙しい季節です。しかし、昨年は少々静かでした。お客様も「東北の森の恵み」と題した蜜ロウソクをわざわざパソコンに向かい購入する気にはならなかったのでしょう。確実とは言えませんが、福島第一原発事故による風評公害は、ハチ蜜の森キャンドルにもやってきたようです。
 ハチミツは一群から年間50kgも収穫されますが、蜜ろうはせいぜい500gです。うちでは20年以上前から地元山形県をはじめ、秋田県、青森県、岩手県北部で収穫された蜜ろうを仕入れています。それは、これら各県の奥山こそが、日本を代表するハチミツの一大生産地だからです。
 ハチミツの放射能は、第一原発に近い田村市のハチミツから160Bq/kgのセシウムが検出(非流通)されています。その他は今の所は出ていないようです。しかし、昨年は実家のハチミツの注文数も確実に減りました。
 文部科学省発表の放射能汚染マップによると、山形県のセシウムの値は、ほとんどが微かな10bq/m未満、高くても10〜30bq/mがポツポツ見られる程度となっています。驚く事に全国の放射能濃度(3/21現在)を比較すれば、山形は全国でも低い値となっているのです。蔵王、吾妻、飯豊、朝日と、ぐるり高い山で囲まれ閉鎖的な地形が幸いしたようです。EUは昨年7月、輸入食品の放射能検査対象から山形県を除外しています。
 もちろん、蜜ろうを仕入れている他三県の山々も同じような値となっています。今の所、東北のハチ蜜の森は、汚染されずに済んでいます。風評公害が払拭され、今年は忙しい12月が戻る事を心から祈っています。


(平成24年3月 サイト「情報屋台」掲載)

ハチ蜜の森キャンドル