愛しハチクマ


 ハチクマが大好きです。今年もまもなく彼らが何千キロもの旅を終えて、ここ朝日連峰の森に帰ってくると思うとドキドキします。
 初夏になると私は毎朝、実家の採蜜の手伝いに追われます。夜明け前に奥山の養蜂場へ一番乗りする時は、いつも50m手前から車のスピードを落として静かに近づきます。するとまもなく、私に気づいたハチクマがバタバタバタと美しい姿を見せて飛び去ります。
 養蜂家がこの季節に高い確率でハチクマに出会えるのには理由があります。養蜂の仕事には、オス蜂の幼虫を取り除く作業があるからです。どういうことかと言うと、オス蜂の巣は、たいてい巣枠の下部外側にはみ出して作られるので切り取られる運命なのです。それにオス蜂は、交尾以外は何も仕事をしないので、たくさんいるとハチミツの無駄な消費にもなります。取り除いた幼虫の入った巣は巣箱の前に捨てておきます。ハチクマは硬い巣箱を壊すことはできませんが、こうして容易に蜂の子をたらふく食べられるのです。
 ハチクマが大好きになった理由はいくつもあります。出会いは、瞳に一目惚れしたことでした。一度だけ気づかれずに至近距離で見たことがありましたが、姿は勇ましいのに瞳が優しいのです。
 それから、大好物が私と同じ蜂の子です。オス蜂のサナギは私たち養蜂家も醤油とハチミツで油炒めして食べるのですが、これが香ばしくて本当においしいのです。
 それからハチクマは、ミツバチの天敵のスズメバチの巣を襲ってくれます。特にキイロスズメバチやオオスズメバチによる秋の被害は甚大で、養蜂家は毎日蜂場をパトロールしなければなりません。養蜂家の中にはハチクマを嫌う人もいますが、実は知らないところで助けられているのです。
 また、ハチクマは東南アジアの越冬地から繁殖地の日本にはるばる帰ってきます。養蜂家が冬越しの南房総から春になると帰ってくるのと似ています。
 さて、ここ数年、目撃するのはひとまわり小さな胸の白い鷹ばかりで、見慣れたハチクマはなかなか現れず残念に思っていました。ちょうど、鳥海イヌワシ未来館の本間賢一氏と知り合った頃だったので、その小さな鷹の写真を送ってみました。なんと、それはハチクマのオスだったのです。
 そして、自動撮影できるビデオカメラを設置することになりました。私は毎日、冷蔵庫で保管していたオス蜂の巣をまんべんなく巣箱の前に置き続けました。一ヶ月後、確認したカメラには、見事に捕食の様子が写し出されていました。しかも二匹です。
 とても不思議なのは、巣箱の真ん前で、二匹がかりで頻繁についばんでいるのに、ハチたちが怒っていないのです。一緒に写っていたテンが、ハチに追われて逃げる様子と対照的でした。本当になにか癒し系のフェロモンを出しているように感じました。その動画を見て私が益々ハチクマに惹かれてしまったことは言うまでもありません。
 いよいよハチクマがやってくる忙しい季節が始まります。
 
 
 

(平成30年5月「鳥海イヌワシみらい館通信」連載 蜂蜜の森から Vol.26掲載)

 

 

  ハチ蜜の森キャンドル