採蜜の技 

 養蜂の仕事はとにかく重たく力のいる仕事です。移動では、20〜30キロもある巣箱を背負います。冬前の給餌では、重たい砂糖水を入れた缶をかかえなければなりません。 なにより最も重労働なのは、ハチミツの収穫「採蜜」です。
 5月末、トチノキに花が咲くと、毎朝3時に起きて養蜂場へ向かいます。まだうす暗いうちから始め、日が高くなる前に終えなければなりません。なぜなら、ミツバチが集めてきたばかりの蜜はとても薄いからです。それを収穫すれば発酵してしまいます。朝一番なら発酵しない濃度のハチミツを収穫できるのです。
 実は、ミツバチたちは、夜通しかかって集めた蜜を羽で扇いだり、口移しで伸ばしあったりして水分を蒸発させているのです。ちなみに、ミツバチ一匹が一生かかって集められる蜜の量は小さじ一杯程だそうです。私たち養蜂家は、そんな彼らの苦労の結晶を朝一番でありがたくいただくのです。
 採蜜の手順は、まず燻煙器で煙をかけながら、巣箱のふたを開け、二階建ての巣箱の上の段の巣板を一枚ずつ取り出します。一枚の巣には、2〜3kgの蜜がたまっていて、およそ2000匹の働き蜂が巣を守っています。巣枠の両端に中指をかけて勢いよく震わせ、ミツバチを巣箱の中に振るい落とします。振るい落とす時は、他の巣のミツバチに接触させないよう注意しなければならず、腕力と技が必要とされます。
 たとえば、巣板を抜き出した巣箱のすき間に余裕のある時は、「ブルン、ブルン」と思いきって震わします。すき間が少しの時は、「ブルブルブル」。すき間がわずかな時は、「超高速微振動」です。これは、うまくいった時は「我ながら」と思ってしまいます。ちなみに、この作業を20年やった私の中指は薬指の方に曲がってしまいました。
 さらに蜂はくっ付いていますので、巣枠の端を両手の平に「パン、パン」と叩き付け衝撃で落とします。手の平は、タコだらけで固くなります。
 この蜂振るいは、養蜂家それぞれにやり方が違うようです。もしかしたら、こんなに蜂を振るい落とすことに、固執しているのは私だけかも知れません。大抵は、振るって落ちなかった蜂が少々多くても、刷毛(はけ)を使って払い落とせるからです。 でも私は、なるべく付いている蜂を少なくしてから刷毛を使いたいのです。
 刷毛さばきにもこつがいります。なにしろ、巣についている蜂はふんばっています。何年かしてから気づいたのですが、鉛筆のまん中を親指と人さし指ではさんでくねくねと曲がっているように見せるのと同じ原理を使えばいいことに気づきました。持つ角度は違いますが、刷毛のまん中あたりを持ってくねくねと動かすのです。大切なのは、巣に対して平行に小刻みに動かすことです。 
  実は、私が刷毛をなるべく使わないのには理由があるのです。初心者の頃、刷毛をがむしゃらに使って、ふと下を見るとケガをした蜂がたくさんもがいていたのです。私は罪の意識にさいなまれてしまったというわけです。
  これらの巧みな技をみなさんに披露できないのはとても残念なことです。

(平成15年4月 通信『ハチ蜜の森から』より)

 



蜂振い  ※現在は弟が担当

さくら養蜂園

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