9. 名人と巨大コイ

 明鏡橋の下は、あの清流で底も見えねい。俺奴だ。泳いだとこは、こうのぞくと底が見えた。あそこは深い。あそこにコイ、両手広げたくらいのいるんだったね。
 あれ、明鏡橋渡るといつでもじいさんがいたんだね。こうしていつも川を見ていた久助さんてのがいたんだ。あの人コイ釣りの名人で、橋の上からみなコイ見えるんだと。
 実際、三尺五寸(1メートル)以上のコイ釣ったんだ、その人が。この人今はもう亡くなったけどな。釣ったのは15年くらい前の話だけど。
 その人はいつも橋の上から見ているのだった。だから危なくって皆注意したものだぜ。年寄りだったから。その人は、「あそこ、ほれあそこいたでは」て見えるんだな。名人たな。見えるのだから、俺奴だ、「何、何しているんだ」て言ってた。見えなくてよ。
 でも名人には橋の上から大きなコイが泳いでいるのが見えたのらしい。
 事実、ものすごく大きいの釣ったと。1メートルはあったな。そのコイは今生きていたかなんだけど、そのコイ渡辺君の小井戸に放していたようだ。俺行って、「見せてくれよ」て言うと、「ちょっと待ってろ」て、ポンプで水くみ出して見せてくれた。今はもういないな。小井戸もない。あっても水が出なくなったり、あっても農薬とかでだめだろう。
 1メートルのコイなんてどこから上げたのか知らないけど、明鏡橋の下で釣っていた。ほら、エサから何から皆聞きに来たらしい。山形あたりからも来た。名人の大竹久助さんに聞きに来たのだな。コイの大物釣りなら明鏡橋の下がいいて、皆来たものだ。山形からもな。主みたいのがいるのだな。少し下流にはいい場所があったらしい。
 昨年の8月にだったが、二見屋で酒飲んだ時、川でピシャって大きなのがハネた。
「ああ、やっぱり今でもいるんだなあ」
と思ったな。

(つづく)

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『 明 鏡 橋 物 語   談/菅井敏夫氏 聞き手/西澤信雄
コミュニティー情報誌“朝日町新聞”平成10年3月号より抜粋


朝日町エコミュージアム